Mailmagazine

しゃちょ。のメルマガジーヌ編集後記

#475無敵のハードラー

どーも。しゃちょです。
 
小学生時代は少年野球に没頭し、
県の選抜チームにも選ばれた彼ですが、
入学した中学校に野球部が無い。
ということで、
硬式テニス部、卓球部、陸上部と、
3つしかない運動部の中から、
一番厳しそうという理由で陸上部を選択。
って、誰の話?って、
ウチの橙(だいだい。中2。息子。)の話。
 
誰に似たのか、真面目な男だよ。
普通、一番ぬるそうなところに入るけどなあ。
 
しかも、あいつは保育園の頃から、
恵まれた運動神経の割には足が滅法遅く、
運動会の徒競走なんぞを観に行っても、
なんだあいつ。見掛け倒しだわ!
隣の女の子に負けてらあ。足がおせーっ!
はたまた、少年野球を観に行っても、
よーし打った!回れ回れー!三塁打だー!
って、おいおい、あいつ三塁にいねーよ!
なんだよ、まだ二塁の手前を走ってらあ。
なんだあいつ、奇跡的に足がおせーっ!
と、鈍足野郎でお馴染みだったあいつが、
何故に陸上部?と、
あいつの入部を伝え聞いた私も含む一族郎党、
かなり、ざわざわ、ざわついたのも、
みなさんご存知の通りでございます。
 
あれから約1年半。
私も陸上に関しては完全なる門外漢であり、
陸上部の基本的なあれこれを全く知らないのですが、
どうやらあいつの種目は、
110メートルハードルらしい。
 
私も十数年に及ぶ出張ライフで、
年間のほとんどを自宅で過ごしていない為、
あいつの日常生活については、
詳しく知らないのですが、
別段、自宅で筋トレに熱を上げてる訳でも無く、
毎食、鶏のササミを凶暴に摂取する訳でも無く、
スマホ片手に呆けた顔してごろりんと、
リビングの床に寝っ転がってるイメージで、
あながち間違いじゃないみたい。
 
とはいいつつも、
ある筋から漏れ伝わる情報によれば、
野球をしていた時ほどの情熱は、
さすがに見受けられないとはいえ、
日々の部活も休まずに、
まあ、そこそこには頑張っている様子。
 
そんなこんな日常の中、
2週間に及ぶアフリカ旅行を終え、
ケニアのナイロビから、
フラフラになって帰国した土曜日。
 
疲労困憊の中、
かみさんがちゃちゃっと作った、
定番のカルボナーラを食しつつ、
久し振りに橙といろいろ話してると、
どうやら、明日の日曜日に、
金沢市の大きな陸上の大会があるらしく、
あいつも予選から出場するらしい。
 
帰国翌日で、
溜まってる仕事があほみたいにあるとはいえ、
ラッキーなことに日曜日であり、
銀行さんや取引先さん等、
お客さんの来社予定もゼロ。
また、私の気持ち的にも、
我が魂は未だアフリカの大地と共にあり、
瞼を閉じればシマウマやヌーの群れ。
耳を澄ませばスワヒリ語。
財布の中にはケニア・シリング。
更には、加齢からくる、
凶悪な時差ボケも手伝って、
こんなもん、
すぐにはなかなか仕事に本腰が入らない。
 
といった、混沌とした状況の中で、
あいつの陸上大会出場情報。
ここはいっちょ、
息子の勇姿でも観に行ったろかな。
と、かみさんにぼんやり呟いてみたところ、
 
わたしも一度も観たことが無い。
陸上競技場もおうちから近いしね。
野球と違って2時間近くも拘束されないし、
110メートルハードルなんて数秒で終わるでしょ。
ちらっと橙のハードル見て、
帰りに近くのケーキ屋で和栗のタルトでも!
 
ということで、
急遽、人生初の陸上競技観戦が決定。
 
 
 
私)「おい。だい坊。明日、観に行くわ。」
 
橙)「え。お父さん、観にくんの?」
 
私)「そだよ。で、予選は何時からよ?」
 
橙)「予選は午前中だけど、観にくるなら決勝からでいいよ。」
 
私)「なんや。えらい強気やんか。」
 
 
 
と、いつの間にかカルボナーラを食べ終え、
ソファでごろりとしてる橙に、
明日、観戦に行く旨を伝えたところで、
そうだそうだ、言い忘れてたことがあった。
 
 
 
 
私)「だい坊。そういえばお前、明日誕生日だなあ。」
 
橙)「そだよ。」
 
私)「あのな、プロ野球選手でもな、持ってる人ってのはな、
誕生日にな、必ずホームラン打つんよ。でな、
勝利に導くバースデーアーチ!とかな、
スポニチとかサンスポの一面をな、ド派手に飾るんよ。」
 
橙)「うん。」
 
私)「明日はな、お前が持ってる男か、
持ってない男かが問われるな。」
 
橙)「あほなプレッシャーかけんといてよ。」
 
私)「持ってる男だったらいいなあ、お前。」
 
橙)「うーん。」
 
 
 
という訳で、大会当日。
 
決勝スタートの12:30に間に合うように、
会社をお昼に抜け出して金沢市営陸上競技場へ。
しっかし、30年振りに来たわ、こんなとこ。
で、意外と観戦者も多いのね。親とか友達とか。
まずまず熱気もあるし、なかなか陸上も熱いねえ。
なーんて、スタンドのベンチに腰掛けると、
「それでは、今から110メートルハードル決勝です。」
との場内アナウンスが。
 
で、結局のところ、
決勝の8人に残ってんのかいな、あいつは。
と、ド近眼の目を必死に凝らして、
スタート地点を見やれば、
なんだよ、いるよ。ちゃっかりいるよ。
第4レーンで準備してるわ、あいつ。
しかも、なんや、あいつ。
他のみんなより頭ひとつ以上、でかいやんか。
ひょろひょろのくせして足だけ長い。俺に似て。
黒のユニフォームもなかなか似合っとる。
見てみ、かあちゃん。
ええ顔してるわ、あいつ。俺に似て。
第○レーンで膝の屈伸運動をしている、
イガグリ君とは血統が違うな。
しっかしなあ。
競馬みたいにオッズがあればなあ。
あいつの単勝に賭けるのに。
そこそこの金額を応援馬券でね!
 
なーんて、
ろくでもないことを隣のかみさんに、
うだうだ言うてる間に準備完了。よーいどん。
 
勢い良くスタートしたあいつは、
一つ目のハードルを跳ぶ。
というか、跨ぐ。
で、二つ目のハードルを跳ぶ。
じゃなくて、跨ぐ。
 
で、おいおい、
他のライバルたちはどうなってんだ?
と、あいつの後方を見やれば、
他の子たちは何をしとんのよ。
まだ一つ目のハードルを跳んだばかり。
 
 
なんや、あいつ。
めちゃめちゃ速いやんか!!
 
 
親も信じられないくらいの圧勝劇。
現在、金沢では無敵のハードラー。
祝!バースデーヴィクトリー!
 
 
なんや、あいつ。持ってるわ。
俺の数倍、持ってるわ。
 
 
私もハードル競技なんて、
生まれて初めて見たので、
全く何もわからないのですが、
足が速いとかあんまり関係ないのかもね。
だって、あいつ、跳んでないもん。
 
中2にして身長180センチ超。
父親に似て足がクソ長いあいつは、
普通にハードル跨いで、走ってるだけやんか。
あんなん、反則。あれはずるい。
 
本人的には跳んでるのだろうけれども、
跳んでるようには見えない時点でオフサイド。
と、陸連にクレームを入れるか迷いましたが、
子供の足を引っ張る親はどうかと思い直して、
今回は自粛。
 
 
だい坊、お誕生日おめでとう。
いいなあ、若者は!
 
と、無敵のハードラーに嫉妬しつつも、
彼のバースデー勝利を心から祝い、
お誕生日ケーキ代わりの、
さっき買った和栗のタルトを頂くも、
加齢のせいか一人で一個食べられない。
 
差し迫る世代交代。
敗残した老兵は立ち去るのみ。
 
じゃあね、おやすみ。
と、食べ切れなかったタルトを残して、
さくっと歯を磨き、
そそくさと寝室に向かって横になるも、
ふざけたレベルの時差ボケで眠れない。
 
確実にひとつの時代が終わりつつあるね。
喜ばしい息子の逞しい成長と裏腹に、
なんだよこの何とも言えない寂寥感は。