どーも。しゃちょです。
小学生時代は少年野球に没頭し、
県の選抜チームにも選ばれた彼ですが、
入学した中学校に野球部が無い。
ということで、
硬式テニス部、卓球部、陸上部と、
3つしかない運動部の中から、
一番厳しそうという理由で陸上部を選択。
って、誰の話?って、
ウチの橙(だいだい。中2。息子。)の話。
誰に似たのか、真面目な男だよ。
普通、一番ぬるそうなところに入るけどなあ。
しかも、あいつは保育園の頃から、
恵まれた運動神経の割には足が滅法遅く、
運動会の徒競走なんぞを観に行っても、
なんだあいつ。見掛け倒しだわ!
隣の女の子に負けてらあ。足がおせーっ!
はたまた、少年野球を観に行っても、
よーし打った!回れ回れー!三塁打だー!
って、おいおい、あいつ三塁にいねーよ!
なんだよ、まだ二塁の手前を走ってらあ。
なんだあいつ、奇跡的に足がおせーっ!
と、鈍足野郎でお馴染みだったあいつが、
何故に陸上部?と、
あいつの入部を伝え聞いた私も含む一族郎党、
かなり、ざわざわ、ざわついたのも、
みなさんご存知の通りでございます。
あれから約1年半。
私も陸上に関しては完全なる門外漢であり、
陸上部の基本的なあれこれを全く知らないのですが、
どうやらあいつの種目は、
110メートルハードルらしい。
私も十数年に及ぶ出張ライフで、
年間のほとんどを自宅で過ごしていない為、
あいつの日常生活については、
詳しく知らないのですが、
別段、自宅で筋トレに熱を上げてる訳でも無く、
毎食、鶏のササミを凶暴に摂取する訳でも無く、
スマホ片手に呆けた顔してごろりんと、
リビングの床に寝っ転がってるイメージで、
あながち間違いじゃないみたい。
とはいいつつも、
ある筋から漏れ伝わる情報によれば、
野球をしていた時ほどの情熱は、
さすがに見受けられないとはいえ、
日々の部活も休まずに、
まあ、そこそこには頑張っている様子。
そんなこんな日常の中、
2週間に及ぶアフリカ旅行を終え、
ケニアのナイロビから、
フラフラになって帰国した土曜日。
疲労困憊の中、
かみさんがちゃちゃっと作った、
定番のカルボナーラを食しつつ、
久し振りに橙といろいろ話してると、
どうやら、明日の日曜日に、
金沢市の大きな陸上の大会があるらしく、
あいつも予選から出場するらしい。
帰国翌日で、
溜まってる仕事があほみたいにあるとはいえ、
ラッキーなことに日曜日であり、
銀行さんや取引先さん等、
お客さんの来社予定もゼロ。
また、私の気持ち的にも、
我が魂は未だアフリカの大地と共にあり、
瞼を閉じればシマウマやヌーの群れ。
耳を澄ませばスワヒリ語。
財布の中にはケニア・シリング。
更には、加齢からくる、
凶悪な時差ボケも手伝って、
こんなもん、
すぐにはなかなか仕事に本腰が入らない。
といった、混沌とした状況の中で、
あいつの陸上大会出場情報。
ここはいっちょ、
息子の勇姿でも観に行ったろかな。
と、かみさんにぼんやり呟いてみたところ、
わたしも一度も観たことが無い。
陸上競技場もおうちから近いしね。
野球と違って2時間近くも拘束されないし、
110メートルハードルなんて数秒で終わるでしょ。
ちらっと橙のハードル見て、
帰りに近くのケーキ屋で和栗のタルトでも!
ということで、
急遽、人生初の陸上競技観戦が決定。
私)「おい。だい坊。明日、観に行くわ。」
橙)「え。お父さん、観にくんの?」
私)「そだよ。で、予選は何時からよ?」
橙)「予選は午前中だけど、観にくるなら決勝からでいいよ。」
私)「なんや。えらい強気やんか。」
と、いつの間にかカルボナーラを食べ終え、
ソファでごろりとしてる橙に、
明日、観戦に行く旨を伝えたところで、
そうだそうだ、言い忘れてたことがあった。
私)「だい坊。そういえばお前、明日誕生日だなあ。」
橙)「そだよ。」
私)「あのな、プロ野球選手でもな、持ってる人ってのはな、
誕生日にな、必ずホームラン打つんよ。でな、
勝利に導くバースデーアーチ!とかな、
スポニチとかサンスポの一面をな、ド派手に飾るんよ。」
橙)「うん。」
私)「明日はな、お前が持ってる男か、
持ってない男かが問われるな。」
橙)「あほなプレッシャーかけんといてよ。」
私)「持ってる男だったらいいなあ、お前。」
橙)「うーん。」
という訳で、大会当日。
決勝スタートの12:30に間に合うように、
会社をお昼に抜け出して金沢市営陸上競技場へ。
しっかし、30年振りに来たわ、こんなとこ。
で、意外と観戦者も多いのね。親とか友達とか。
まずまず熱気もあるし、なかなか陸上も熱いねえ。
なーんて、スタンドのベンチに腰掛けると、
「それでは、今から110メートルハードル決勝です。」
との場内アナウンスが。
で、結局のところ、
決勝の8人に残ってんのかいな、あいつは。
と、ド近眼の目を必死に凝らして、
スタート地点を見やれば、
なんだよ、いるよ。ちゃっかりいるよ。
第4レーンで準備してるわ、あいつ。
しかも、なんや、あいつ。
他のみんなより頭ひとつ以上、でかいやんか。
ひょろひょろのくせして足だけ長い。俺に似て。
黒のユニフォームもなかなか似合っとる。
見てみ、かあちゃん。
ええ顔してるわ、あいつ。俺に似て。
第○レーンで膝の屈伸運動をしている、
イガグリ君とは血統が違うな。
しっかしなあ。
競馬みたいにオッズがあればなあ。
あいつの単勝に賭けるのに。
そこそこの金額を応援馬券でね!
なーんて、
ろくでもないことを隣のかみさんに、
うだうだ言うてる間に準備完了。よーいどん。
勢い良くスタートしたあいつは、
一つ目のハードルを跳ぶ。
というか、跨ぐ。
で、二つ目のハードルを跳ぶ。
じゃなくて、跨ぐ。
で、おいおい、
他のライバルたちはどうなってんだ?
と、あいつの後方を見やれば、
他の子たちは何をしとんのよ。
まだ一つ目のハードルを跳んだばかり。
なんや、あいつ。
めちゃめちゃ速いやんか!!
親も信じられないくらいの圧勝劇。
現在、金沢では無敵のハードラー。
祝!バースデーヴィクトリー!
なんや、あいつ。持ってるわ。
俺の数倍、持ってるわ。
私もハードル競技なんて、
生まれて初めて見たので、
全く何もわからないのですが、
足が速いとかあんまり関係ないのかもね。
だって、あいつ、跳んでないもん。
中2にして身長180センチ超。
父親に似て足がクソ長いあいつは、
普通にハードル跨いで、走ってるだけやんか。
あんなん、反則。あれはずるい。
本人的には跳んでるのだろうけれども、
跳んでるようには見えない時点でオフサイド。
と、陸連にクレームを入れるか迷いましたが、
子供の足を引っ張る親はどうかと思い直して、
今回は自粛。
だい坊、お誕生日おめでとう。
いいなあ、若者は!
と、無敵のハードラーに嫉妬しつつも、
彼のバースデー勝利を心から祝い、
お誕生日ケーキ代わりの、
さっき買った和栗のタルトを頂くも、
加齢のせいか一人で一個食べられない。
差し迫る世代交代。
敗残した老兵は立ち去るのみ。
じゃあね、おやすみ。
と、食べ切れなかったタルトを残して、
さくっと歯を磨き、
そそくさと寝室に向かって横になるも、
ふざけたレベルの時差ボケで眠れない。
確実にひとつの時代が終わりつつあるね。
喜ばしい息子の逞しい成長と裏腹に、
なんだよこの何とも言えない寂寥感は。
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