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しゃちょ。のメルマガジーヌ編集後記

#299かき揚げ蕎麦

どーも。オジコのしゃちょです。

早朝、長野駅のホームで時計を見ると、
新幹線の発車まであと15分。
ここは一発、朝ごはんに信州の立ち食い蕎麦。
と決め込んで進路を左にとり完全に場所を記憶している、
いつもの立ち食い蕎麦屋さんに向かうと、
60代後半くらいでしょうか、
善光寺への参拝帰りだろうおじさんとおばさんが、
券売機の前でもたもたもたもたしてる。

何をもたもたしてるんだろうか、この御仁は。
早く月見そばでも肉そばでも焼きそばでも何でもいいから、
さくっとボタンを押しちゃって発券してくれ頼むから。
と、若干の空腹と時間に余裕が無く焦る気持ちが手伝って、
湧き出る大人げない苛立ちを隠そうと踏ん張っていると、
ありゃあ、発券中止になっちゃったよ。とほほ。
と、おじさんが詮無いことをつぶやくもんだから、
どれどれそんなおかしなことがあるもんですか。と、
券売機をおじさんの背後からちらりと覗き見れば、
すべてのランプが真っ赤になって発券中止の表示。

おばあちゃーん。券が買えないよ。とほほ。
と、おじさんが蕎麦屋のカウンターの窓越しに嘆くと、
蕎麦屋の中からエプロン付けたおばあちゃんが出てきて、
ありゃあ、中で10円が詰まってるわ。すつれいしました。
なんつって、手際良く券売機に向き合いカギを開け、
大量の小銭がカチ盛りに入ってる銀のボックスを、
ガチャガチャ揺すり緑のリセットボタンをポチッと押すと、
券売機はグゥオーンと復活の狼煙をあげ息を吹き返し、
すべてのメニューが購入可能になって、めでたしめでたし。
で、この時点で、新幹線発車まであと10分。

ちょいとギリギリだけど、まあ大丈夫か。
早いところ、いつものかき揚げ蕎麦を注文して、
さくっと食べて、さくっと新幹線。
と、この先の段取りを心の中で確認していると、
私の前にいる先ほどのおじさんとおばさんが、
復活した券売機で注文するのは私と一緒。かき揚げ蕎麦。

おばあちゃん。かき揚げ蕎麦を2つ。なるべく早くね。
と、おじさんが半券2つを蕎麦屋のおばあちゃんに差し出すと、
おばあちゃんがマニュアル通りに威勢よく復唱。
「かっっき揚げそばあ、2丁!」

出ちゃいましたか。かき揚げ蕎麦が。
やめてくんないかなあ。。おじさんおばさん。
かき揚げ蕎麦だけはやめて欲しいなあ。。

自分でもどういう深層心理の作用なのか、
未だにひとつもよくわからないのですが、
私は物心がつきはじめた幼少の頃から、
自分が予め選択したモノを他者に先に選択されちゃうと、
なぜかそれを選択できなくなってしまう。
という、奇々怪々な悪癖を持っているんだよなあ。
被った注文できない病。正しく奇病。困ったもんだ。

「俺、ネギラーメン。」
「じゃあ、俺もネギラーメン。」
これができない。どうしてもできない。

この局面において、
私は蕎麦を食べる。って決めた時から決めていた、
かき揚げ蕎麦をどうしても食べたいんだけど、
っていいますか、
かき揚げ蕎麦以外は絶対に食べたくないんだけど、
おじさんがかき揚げ蕎麦の半券を2枚提出した後で、
おばあちゃん店員が、かっっき揚げそばあ、と絶叫した後で、
間髪入れずに、多種多様なメニューの中からよりによって、
同じかき揚げ蕎麦を選び、その半券をおばあちゃんに手渡す。
ってことが、どうしてもできない。かき揚げ蕎麦を被れない。
なんだか身体がむず痒くなって、心がぞわぞわ。
暗澹たる気分になって心身がこそばゆーい感じになって、
魂に亀裂が入ったようになっちまうんだよなあ、昔から。

というわけで、
渇望していたかき揚げ蕎麦を潔く諦めて他のメニューを見ると、
山菜そば。なめこそば。野沢菜わさびそば。おやき。
うーん。決め手に欠くなあ。どれも要らねー。
やっぱりやっぱり、かき揚げ蕎麦だよなあ。
あー。かき揚げ蕎麦喰いてー。死ぬほど喰いてー。

ええいままよ。この際、清水の舞台から飛び降りるつもりで、
かき揚げ蕎麦のボタンを思い切ってプッシュ、
かき揚げ蕎麦の半券をおばあちゃんに差し出して、
かっっき揚げそばあ、続いて、続いて、もう1丁!
なーんて威勢よく復唱されて赤面、
ちらっと横を見やれば、かき揚げ蕎麦をずるずる食べてる、
善光寺帰りのおじさんおばさんと、図らずも目が合って、
なんだよ、俺の真似してお前さんもかき揚げ蕎麦かよ。
とことんつまんねえ男だなあ。ものまね猿野郎だなあ。
志が低いなあ。小粒だなあ。笑止だなあ。とほほ。
なーんて顔をされると思うと、それが嫌で嫌でたまらなく、
やっぱりかき揚げ蕎麦だけは注文できない。馬鹿野郎。
どうすりゃあいいんだ、あと6分しかないのに。。
おじさんおばさんが普通に肉そばでも頼んでりゃ、
もうとっくのとうに俺も喰い終わってるよ!

なーんて、どうでもいい話が長くなりました。
まあ、結局は、かき揚げ蕎麦の隣にあった、
かき揚げ玉子蕎麦なるものを見つけて注文。

かっっき揚げ玉子そばあ、1丁!
と、活気あるおばあちゃんの叫びが、
蕎麦屋のカウンターに大きく響いて万事解決。
1ミリも要らない玉子に悪戦苦闘しましたが、
出てきたかき揚げ玉子蕎麦を3分で飲み干して、
新幹線かがやき号に無事に飛び乗ることに成功。
しっかし、逡巡したなあ。参ったなあ。

明日からまた出張。
いろいろくだらないことで葛藤しながらも、
自分に折り合いをつけて面白おかしく生きていく。
税金の請求書ばっかり届いて気分が晴れないこの頃ですが、
前を向いて進んでいきます。活気良く。

ではでは、今週はこのへんで。
みなさんも楽しい初夏の日をお過ごしください。

いつもありがとうございます!